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読書記録

引っ越し大名三千里

『引っ越し大名三千里』土橋章宏  ハルキ文庫


面白い!もう、最高に面白くて不覚にも何度も声を立てて笑ってしまった。


徳川家康の血を引く譜代大名でありながら、その生涯で七度の国替えをさせられた君主、松平直矩は、ついたあだ名が引っ越し大名。四度目の引っ越しで姫路に落ち着いていた天和二年、いきなり減俸と国替えの沙汰が下りる。国替えには複雑な手続きがいくつもあり、たっぷりと費用もかかる。その上度重なる激務で、今まで頼りにしてきた引っ越しの手練れの下士は先月亡くなっていた!さあ、誰もやりたがらないこの大変なお役目、どうする、どうする…。


そのとんでもない貧乏くじを引かされたのが藩内でも「かたつむり」とあだ名される若輩者の引きこもり侍、片桐春之助だった。人と交わるのが苦手、武芸も算術もからっきし、書庫番として日がな一日墨や紙のかび臭い匂いを嗅いで書物整理をしているのが大好きと言う春之助。上士の後継なのに意気地なしの引きこもりとあって、母親は彼の顔を見れば嘆きっぱなし。


そんな、どこに行っても馬鹿にされていた春之助が、いきなり「引っ越し奉行」とは!しかも「人無し、金無し、経験無し」の中での無謀な引っ越し。国替えの多い藩によっては仕切りに失敗して腹を切らされる者も少なくないと言う。そんなもの、引き受けたら死んでしまう!と即座に断るも、「おぬし、今まで藩の役に立った事が一度でもあったか?嫌ならば腹を切れ!」と詰め寄られ、どちらにしても死ぬのなら…と押し付けられた役を引き受けた。


そんなかたつむりの春之助が、どうやって播磨姫路から豊後日田までの不可能とも思える引っ越しを成し遂げ、しまいには引っ越しのエキスパート?となって行くか、その過程が面白いのなんの。威張ってばかりだった上役も、腹を括った春之助の生真面目さと引っ越し計画に巻き込まれて赤くなったり青くなったり。


お刀番の年かさの幼馴染、苦労を分かち合う江戸の留守居役、亡くなった引っ越し奉行の娘、於蘭…。支えてくれる人々を得て「引っ越しは戦でござる」との覚悟を決めた春之助の彼らしい働きと成長、時の将軍徳川綱吉柳沢吉保なども結構重要なポイントで出てきてとにかく文句無しに面白い。そして笑って笑って、所々で春之助の人柄にじーんとなって泣かされた。


八月末に星野源さん主役で公開予定の映画も楽しみ。f:id:aromatomoko:20190612154807j:image