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読書記録

ブックショップ

ブックショップ (ハーパーコリンズ・フィクション)

『ブックショップ』ペネロピ・フィッツジェラルド 山本やよい訳      ハーパー・コリンズ


映画「マイ・ブック・ショップ」の原作。


物語の舞台は、1950年代後半のイースト・アングリア。海岸沿いの町で暮らす未亡人のフローレンス・グリーンは「オールドハウス」と呼ばれている非常に古い家屋を購入し、本屋が一軒も無い町で書店を開くに当たり思い悩んで寝られない夜を過ごしていた。若い頃書店員だった彼女は、小柄で影の薄い女性だが、本のことになると情熱と勇気が燃え上がるタイプ。保守的な町の人々や銀行、弁護士、町の有力者の圧力にも負けずに書店をオープンさせ、時々帳簿を見てくれる人を見つけ、手伝いの少女を雇う。周りから見たらかなり無謀な未亡人起業家。しかしある人物の書店に対する思いがけない反応がきっかけとなって、店は予想外の盛況を見せ、フローレンスは度重なる妨害にも果敢に立ち向かうのだが…。


『テムズ河の人々』で、ブッカー賞を受賞したイギリスの作家ペネロピ・フィッツジェラルドは、「生まれながらの敗残者で、さらには深い喪失感を抱えた人に私は惹かれます」とよく言っていたそうだ。編集者ハーマイオニー・リー氏がフィッツジェラルドについて書いている前書きが深く心に響き、映画の宣伝や本の帯から想像したものとはかなり異なる印象を受けて読了した本書を理解するための大きな助けになった。これは悲劇的な人生観を持ち、それをユーモラスに表現できる作家が書いた本なのだ、と。


文章は簡潔で、噛みしめるように読んでも物足りないと思うほどなのに、独特の歯ごたえで海沿いの寒々とした町や人々の陰鬱な雰囲気の中にも「ふふっ」と笑ってしまう滑稽さがあり、印象的なフレーズが度々出て来る。しかし、ここに書かれていない、行間から想像するしかないブックショップを巡る人々の会話や姿、古い建築物、1950年代のイギリスの雰囲気、そして本と本屋さんの光景を…やっぱり映画で観てみたいなあ…と結局欲求不満に(笑)


最後に好きなフレーズを。
「良書はすぐれた魂にとって貴重な血液となるものであり、来世までも伝えていくために防腐処置を施し、大切に保存しておかねばなりません。故に、当然ながら生活必需品とみなすべきです」然り。