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読書記録

みかんとひよどり

『みかんとひよどり』 近藤史恵


フランス料理店の雇われシェフ潮田は、飼い犬ピリカと鳥撃ちに出かけて冬山に迷い込み遭難。死にかけたところを猟師の大高に助けられる。料理人として行き詰まりを感じている潮田は、面倒な人との関わりを極力避けたがる無愛想な大高の猟師としての生き方を目の当たりにして刺激を受け、ジビエ料理のメニューの幅を広げていく。


潮田を雇ったジビエ好きのオーナー、潮田の素材に対するこだわり、頑なとも言える大高の生き方、そして狩猟に対して強固に反対する姿の見えない者たちの影ががいくつかの事件に見え隠れして…。


家畜として人間が管理した肉を食べることと、野生の動物の肉を食べることの違い、ジビエ料理と素材としての肉の確保と流通、そもそも生きるために他の生き物の命を日々いただいている事実に鈍感になっている我が身を振り返らずにはいられない内容だった。


洒落たジビエ料理の描写、近藤さんらしいミステリー風味も交えながらの物語は、可愛らしいタイトルと違って投げかける問いかけは重たい。登場人物も男二人は相互に影響しあって徐々に変化するが、最初はどちらも好感度が低く、女性オーナーと、フランス料理店のスタッフの若い女性の実務能力に長けてサバサバした性格にかなり救われている感じ。


『みかんとひよどり』と言うタイトルは、たっぷりみかんを食べたひよどりは、肉そのものからみかんの良い香りがして、あえて他のフルーツに合わせる必要が無い…食べたものでその生き物の身体は作られている事、余計な組み合わせを必要としない事を表しているのだろうか?


不運にもフランス料理店で美味しいジビエ料理に出会ったことがなく、観光地の屋台の鹿肉の串焼きや、雀の丸焼きの方がずっと安くて美味しいと思うグルメ度の低い自分には、野生動物の肉を食べたり、害獣駆除後の大量処分される肉を活かす方向性をフランス料理にのみ繋げる部分はあまり共感出来ず。舌が肥えたジビエ好きの人にはたまらなく美味しそうな章立てになっているとは思う。

 


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