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読書記録

ショコラティエ

ショコラティエ藤野恵美


終わってしまうのがもったいなくて、この先が読みたい。そう思うほど素敵な少年少女の成長物語だった。しかも神戸を舞台に、美味しそうなケーキやチョコレートが次々と出てきて、その描写が過剰でなく、たまらなく上手いので読んでいて味や香りを想像してクラクラ(笑)


母子家庭の聖太郎は、クリスチャン家庭で育ったものの、父を事故で亡くした喪失感を母と共有できない(ゆるぎない信仰によって母は満たされている)寂しさを感じている。
一方、裕福な製菓会社の御曹司・光博は、欲しいものは何でも与えられ、常にお手伝いさんがいる豪邸に住んでいても、滅多に顔を合わせない父、要求水準の高い母親からのプレッシャーや、大好きな祖父と母親の相性が悪いことに居心地の悪さを感じている。友達もいないし、必要とも思っていない。共にまだ小学四年生。


ある日、同じクラスの光博の誕生パーティーに招かれた聖太郎は、そこで初めて目にしたチョコレートの泉に我を忘れるほど惹きつけられる。その彼の姿に光博の祖父・源二が目を止めたことから光博は聖太郎を意識する。そして、それぞれ孤独感を抱えていた二人は親しくなり、放課後「一緒に美味しいお菓子を作ろう」と実験のようにお菓子作りに熱中し、無邪気で幸せな時間を過ごしていた。


が、中学生になったある日、聖太郎は光博の幼馴染が出場するピアノコンクールに誘われ、凛々花を紹介される。凛々花のピアノの才能に圧倒され、他人の目を気にしない凛々花の性格に惹かれた聖太郎は、急に光博や凛々花の家庭環境と自分の置かれている環境の落差を改めて意識する。そして聖太郎は次第に光博の家に行かなくなり、二人は疎遠になって行く…。


菓子作りの才能に恵まれ、ひたむきに努力を積み重ねて突き進んで行く聖太郎、誰もが羨む様なバックグラウンドを持ちながら、親の期待に応えられず、熱中するものも無く、己の凡庸さや不甲斐なさに押しつぶされて行く光博。持てる才能だけではどうにもならない壁に突き当たりながら焦る凛々花。


それぞれの淡い恋、家庭環境や才能への嫉妬など若者たちの心境を丁寧に描きながら、バブルから平成の不況へ、阪神淡路大震災オウム真理教サリン事件と世の中の大きな流れや出来事も同時に書かれ、各々の置かれた立場で3人の子供たちが大人になって行く様子が何とも言えず愛おしい。


そして…大人になった3人を結ぶのはやっぱりショコラ…。ラスト近くで鳥肌が立ったのは、感動したのか描写が素晴らしかったのか、自分の食い気か?(笑)そこはわからないけれど、とにかく極上の読後感と満足のため息を残して本を閉じた。


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