晴読雨読

読書記録

つまをめとらば

『つまをめとらば』青山文平


太平の江戸の世にあって、身の置き所の無い下級武士の男たちの心許なさと、女たちの逞しさを描く。「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付け」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の六遍を収録。


男たちの生真面目さ、純情さ、悩みに対し、登場する女たちの圧倒的な存在感、したたかさ、環境への順応力を感じさせ、身体感覚で身の丈を生きる女たちの強さを感じさせる。


「つゆかせぎ」「逢対」に登場する女たちは男を全くあてにせず、男はいらない、子供だけが欲しいとはっきり口にするし、表題作の「つまをめとらば」は、56歳になるまで独り身を通した男が所帯を持つことに踏ん切りをつけるまでの成り行きが面白い。幼馴染の男二人が偶然再会し、ひょんなことから同じ敷地内の主屋と家作で暮らすうち、お互い「平穏な暮らしとは気のおけない男同士の暮らしにこそあるのではないか…」と思い始める。どれだけ女運が悪かったのか(笑)と思うが、(このままでもいいか…)と言う迷いを結局断ち切るのも、また強烈な女の姿を目の当たりにしてのこと。


妻をめとらば…と男とが女を選ぼうにも、根本から違う生き物である女の本性に翻弄されたり、驚いたり、救われる男達。「つくづく女には敵わない…」と、お役の無い下級武士たちのため息が聞こえて来るようだった。直木賞受賞作。f:id:aromatomoko:20190606223341j:image